「多香子」
何度もその名前を呼びながら多香子の体を温め続ける。自分と多香子の体を密着させて自分の体温も分けるようにしながら、渉は多香子の状態の変化を慎重に見ていた。

しばらく多香子の体を温めていると多香子の意識が徐々にはっきりとしてきた。
頬もうっすらと赤くなり始める。渉は脈をとり、状態が安定してきたことを確認していた。

「ご・・・めん・・・・」
シャワーの音に消えそうな声で多香子が瞳を閉じたまま、渉に全身をゆだねるように寄りかかりつぶやく。

浴槽にはたっぷりとお湯がたまり、渉は手を伸ばしてシャワーのお湯を止めた。

「ばか・・・」
渉もそうつぶやく。

多香子は渉に寄りかかったまま自分の手を見た。
その手が震えているのはもう、体が冷えているからではないことを渉は気づいている。