多香子は渉の手の温かさに、小さく息をはいた。
目を閉じる。

たくさんの悲しみの分の涙はずっと多香子の心の中で流れ続けている。
まるでその涙を渉が拭ってくれているようなそんな感覚だった。

そんな多香子を渉はそっと抱き寄せた。

「多香子」
「ん?」
多香子は渉の胸の中で目を閉じて、そのぬくもりに浸っていた。

「多香子」
「ん?」
多香子は目を閉じたまま渉の大きな背中に手をまわす。
「なぁに?」
穏やかな口調で多香子が渉に聞く。