「……じゃあ、警察官に連行してもらわなくちゃね」


両手が塞がった状態でカンナはあたしの頭から両手をするりと通し、首に抱きつくみたいな体制であたしをホールドしている。

カチャリと手錠の鎖部分の音が耳の後ろに響く。

カンナはあたしの頭に額をくっつけて、こう言った。


「それとも、ひめをこのまま誘拐してしまおうかな……?」


怪しく、妖艶に。少し背筋が凍りそうになる笑みで、カンナはあたしを見つめている。

それは目と鼻の先、ゼロ距離で。


カンナの瞳を間近で見ていると、おかしくなる。脳のどこかで警鐘が聞こえる。


ーー危険。逃げろ。


これ以上はダメだって思っているのに、体がいうことを効かない。


憂だ瞳は色っぽく。紡ぐ言葉は甘い。


初めは頬だった。それがどんどん広がって、やがて耳、そして今では顔全体が熱い。

悔しいけれど、きっと間近で見ているカンナにはあたしの顔色の変化が手に取るように感じているはずだ。


「ねぇ、ひめ。俺のこと、好きになってくれた?」


そんなわけないじゃん。

いつもならこう言う。けど、今だけは言えない。唇は石にでもなってしまったかのように動かない。


「何も言わないのは、ずるいよ」


わかってるのに、声が出ない。目を離したいのに、離せない。


なんで、どうして……?


「ずるい子にはお仕置きだね」


熱でトロンととろみを感じる瞳が、あたしの瞳を捉えて離さない。カンナの額はあたしの頭から離れたかと思ったら、そのままゆっくりと降りてくる。

あたしの後頭部を鎖で繋いだ両手で握りしめながら、カンナはそっと瞳を閉じた。その熱があたしを固めていたのかもしれない。

カンナはあたしの体を石にする術を持っていたのかもしれない。だって、カンナが瞳を閉じてすぐふと体が軽くなった気がしたから。

けれどそれは手遅れだったけど……。


あたしは逃げることができず、カンナの唇に捕まっていたーー。