けど、そんな聴衆なんてどうでもよかった。

俺はもっとひめと話がしたかったし、ひめのことだけを見ていたかった。

今もキラキラと水面に映る光のように、ひめの周りだけが輝いて見えていた。


「ねぇ、ひめ。俺と付き合おう」


だけどひめはあっさりと二言返事でこう言った。


「ヤダ!」


そして掴んでいた手首も、あっさり振り払われてしまった。


「ありえないでしょ」

「ありえなくはないでしょ」

「無いよ! あんたこないだまであたしの事嫌ってたくせに、なに言ってんの? 何か魂胆があるんでしょ?」


頭大丈夫? とでも言いたげな物言い。その上眉間にはくっきりと深いシワが寄せられている。


ああ、好きになった人の表情って、どんな顔をしていても可愛いって思えるもんなんだな。なんて俺は思わず感動していた。


「嫌ってたのはこないだまでの話で、今は違うよ。好きになるのに、理由なんかないでしょ?」

「信じらんない……」


そう言ってひめは駆け出して行ってしまった。

ちょうど予鈴が校庭に鳴り響き、俺とひめの攻防戦はここから始まることになった。