「ならひめが外さないように、ペアのもの買いに行こうか」

「わっ!」


そう言ったカンナは、あたしをお姫様抱っこして階段を降って行く。


「えっ、待って、まさか今から行くとか言うんじゃないよね?」

「善は急げでしょ」


全然善じゃないし。むしろ授業中なんですけど。


「ひめは負傷中だから早く療養しなくちゃ」


療養って……。


「待ってよ、そしたら鞄はどうするの?」

「置いて帰るに決まってるでしょ」

「えー」


まぁ、もう授業に出るモチベーションはないけど。


「療養するには、甘いものが必要なんだけど……ケーキとか」


この際だしどうにでもなれ。ってそう思って、あたしがそんなことを言うと、カンナは目を丸くした後、瞳の角を落として、ふわりと笑った。


「美味しいケーキ食べに行きたいな……」


なんて可愛く甘えて見たら、カンナは自分の額をあたしの額に擦り付けながら、こう言った。


「ひめが、可愛い」


そんなことをわざわざ口に出して言わなくてもいいんだけど。思わず顔を赤らめてると、カンナはさらにこう言った。


「じゃあ今度はひめのおごりで」


全然甘くないことを、甘い声で言ってくる。


「なんでよ。カンナこそ、あたしのものでしょ?」

「あははっ! そうだね」


珍しくカンナは声を上げて笑った。

けどすぐに瞳を濡らして、とろけるような笑みを向けてこう言った。



「じゃあ、ケーキより甘いものをあげる」



……そう言って、カンナはあたしにキスを交わした。


ケーキよりも甘く、今まで感じたことのないほどの幸福感をあたしに与えながらーー。







【fin】