王子様は、お姫様にキスをする。


そのキスは目覚めのキス。


まるで何年も眠りについていたかのように、あたしの視界に映る世界は今までとは違って見えた。


「ひめ」


カンナがあたしを抱きしめて、甘い声であたしの名前を耳元で囁く。


「やっと捕まえた。ひめの気持ちも全部、俺のものだよ」

「だからあたしはものじゃーー」


王子様は紳士なんだと思っていたけれど、どうやらこの王子様は違う様子。

あたしに全部言わせる前に、言葉を奪った。

それはそれは甘く、とろけるような、キスで。


「うん、知ってる。ひめはものじゃない」


……だけど、俺のものでしょ?


なんて性懲りも無くそう呟くカンナに、あたしは言い返す気力はもうない。代わりにカンナに抱きついてみると、カンナはあたしをさらに強く抱きしめた。


すると、カンナの胸元で硬い何かが当たった。それが何か確認すると、あたしが前に出店で買うことになったあのネックレスだった。


「……つけてくれてたんだ」


ケンカして、口もきかなくなって。もうとっくにこんなもの外されてると思ってた。

むしろその存在自体忘れてたのに。


「当たり前でしょ。ひめは外してるけど」


そう言ってあたしの手首を掴んで、何もないそこにキスをする。


「あれはあたしが買ったものだから、いいでしょ。ペアでもないんだし」


というか、あたしはつける気になんてなれなかった。


カンナと絶交したあと、あれをつけてるとなんだか自分だけが未練を持ってるみたいに感じられたから。