ケイタイ番号を教えたはいいけど
まぁ、あの場のあのノリで
掛かって来ることはないだろう、と

あたしは退勤後に予約を入れたエステで
すっぴんの顔を泥まみれにしたり
ゲルマニウム温浴で ザックリ汗をかいて
心地よいダルさの中

そして急に降り出した雨の中、
帰りにラーメン屋にでも寄ろうか、なんて考えながら
折り畳みのカサを広げて肩を濡らしながらトボトボ歩いた。


雨の音に混じって聞き慣れた着メロ。

誰だよこの番号…知らねー…

と思っている間に音が途切れた。


まさか…?


と、とっさに掛け直す。
ワンコール。
ツーコール。

「はいはい」
やっぱり!
「もしもし、八代です…電話…」
「うん、今掛けたみた」

あたしはなんだか嬉しくなって、
雨の音に耳を塞ぎながら商店街のアーケードに身を隠した。

「ホントに電話くれたんだね!嬉しいよ」
あたしはそう言いながら笑った。

「映画見に行く話とかしたくてさ」
うんうん、とあたしは全身で相槌を打つ。


いい年してさ。
なにやってんの、あたし。