その日の晚。御門家─────




「母さん、俺をあともう1年早く産んでくれよぉーー」




鈴とそっくりな顔をしている母親、《 彪<あや> 》はそんな息子の発言に厳つい眼差しを向ける。


「んなの知るか。その文句はなかなか結婚の決意をしてくんなかった勇次郎(夫)に言いな」




その言葉に肩をびくつかせた父親は何も言えずにいた。




「・・・・・え、えっとお〜・・・そ、そういやぁ、ゆっちゃん、もう高校生だなぁ」




気まずかったのか、逃げるように違う話題に切り替えた。




「そうねぇ。初めて会った時からもう4年経っちゃうのねぇ」




「あ、そういやぁ鈴が珍しく人に打ち解けてたよなぁ。懐かしや〜懐かしや〜」




「うっせー」






御門家は4年前にこの地に引っ越してきた。



前に住んでいた住人は引っ越したので、その家を買い取ったのだ。





その家の隣に住んでいたのがゆずだった。




広々とある家に母親と二人暮ししていたゆず。




家族で挨拶しに行った時、俺は・・・・・・




その頃を思い出すと胸が熱くなる。





あの日、ゆずに一目惚れしたあの日から、ずっと──────────





あれから4年。



家族ぐるみで仲良くなった凪家と御門家。




母さんと父さんはゆずのことを『ゆっちゃん』と呼んでいる。




ゆずのお母さんは俺の事、『すーちゃん』って呼んでるんだけど・・・もうそろそろ変えて欲しい。





すると母さんが頬杖をつきながら見てくる。





「あ、またあんたゆっちゃんに『違うとこ行かないで〜もう1年いて〜』とか言ってないわよね?(笑)」



「は?言ってねぇし!(それっぽいことは言った)」




両親がニヤニヤしてこっちを見てくる。だから机に向かい、鉛筆を持って勉強する。




めんどい。めんどいわあああ!!!

思春期です。




「ゆっちゃんが高校に行ったらモテモテだろう
な〜」




父親のその言葉を聞いて、手の力が抜けた。
ペンがコロコロと転がる。




「たしかにねぇ。可愛いもんねゆっちゃんは」




(そうだ。忘れていた。ゆずはモテるんだ)




その日、鈴の頭の中はヤバイの一言しか出てこなかった。