元カレも、ゴウちゃんも…私にとって忘れたい人ではない。



大事な人だった。



私を苦しくさせるのは、ママとのすれ違いだということにママは気付いてくれない。


“ 言いたいことは、ちゃんと言えよ。“


ゴウちゃんの言葉が耳にこだまする。



「ママっ…ママ、私ね。」」

私が少しだけ強めな口調でママを呼んだとき、背後でぷにょにょの尾びれが跳ねた音がした。

パチャ…ピチョ…

「あ……金魚、 どうしたの?
可愛いっ♡……いつから飼ってるの?」

ママは私の肩から手を離すと、金魚鉢に近づいて指を伸ばす。



心が…叫ぶ。

やめてっ!!

近づかないでっ……。

お願いっ!!


「 ……ダメっ!!」

声にならない声が、ひとつだけ言えた。

けれど、そう言った自分に…ハッとして怖くなる。

私は思わず、金魚鉢とママの間に入って…両手を広げる。

その勢いと振動で、ビニール袋のエサが金魚鉢の中に零れ落ちた。

チャックが上手く閉じていなかったらしい。

ザザーーっと、深緑の粒が水面に浮かんで蓋をする。