緑に浸食されつつある大きなタンク。

サビで赤くなった鉄の骨組み。

同じく赤い屋根…屋根?

サビの塊は、かろうじて工場の屋根だったことが分かる。

つたに覆われたこの大きな建物に、足がすくむ。

もう残り僅かな力で、緑に抵抗する…人の手で造られた儚い鉄の塊。



最後に叫んでいるような…

もがいているような…


屍に近いその建物から、私は目をそらして走り出した。

もし…目を合わせてしまったなら、その廃墟から肩を叩かれる。


山で迷う人の気持ちが少し分かる。

なぜ……来た道を戻らないのか?

戻ろうにも、そこはもう怖い。

戻る道が蓋をしたように……消えたように見える。

目の前の近い光に走りたくなる。

前へ、前へ…走りたくなる。


私は、後ろを振り向かないように…逃げるように進むとやっと人の気配を感じて、ホッとした。

けれど、辿り着いたそこにも看板が傾いた建物。

民宿?…もう少し大きい?旅館?のような廃墟。

その入口に解体業者らしき人影と、数台の重機が目に入った。

土木作業員が数人……ヘルメットと作業着姿で仕事をしている。


何でだろう……人の姿に安心した。

ふっと顔を上げると作業員の中でも一番若いであろう……男の子と目が合った。