「菜乃花?どこか出かけるの?」

「うん、ママ…ごめん。今日、晩ご飯いらないっ。」

「あっ…そうなの。山野君と一緒に、美味しい串焼きのお店…どうかなって話してたのに。」

バタバタと玄関でスニーカーを履く私に2人は揃ってダイニングの椅子から立ち上がる。

「ごめんね。ママ、山野さん…ごゆっくり。」

「あっ。じゃぁ、また今度に…」

山野さんは人の良さそうな笑顔を見せる。

やっぱり、今までの彼氏と雰囲気が違う。

「あっ…そうだ、ママ…この町の夜市って知ってる?」

「夜市?夜市……っていうか、夜楽祭りなら…来週かな。ねぇ、山野君。」

「あぁぁ。そうそう…夜市かぁ…懐かしいな。」

「………分かった。」

ママと山野さんの答えに、ふっ…と立ち止まった私はすぐに前を向き直る。

「山野さん、串焼き…今度連れて行ってくださいね。ママをよろしくお願いします。」

2人がオロオロと見送る様子を置き去りにして、私はマンションの廊下を走り出していた。

エレベーターも待てなくて階段を駆け下りる。

私は、バス停に向かいながら何度も通話ボタンを押す。

   広斗っ、お願いっ!出てっ。