「歩くの…速い」

すぐさま俺に追いついた氷野の距離が、少しばかりいつもより近い気がする。


「悪い」

わざと速く歩いたのだが、とりあえず謝りながらもふとある考えが思いついた。


きっと今の氷野は俺に好意を抱いているだけ。
恋愛感情まで発展していないはずだ。

もしこれが恋愛感情になれば、もっと大変なことになる。


ならばそうなる前に嫌われたらいい話。

例えば弱ったらしい姿を見せるとか、冷たくあしらって紳士的なところを見せないとか。


好意を寄せられるより嫌われたほうがずっとマシだ。
おそらく氷野のためでもある。

今の俺が他の女に目を向けることはできないだろうし、そもそも氷野が俺に好意を寄せていること自体未だに信じ難いことだ。