「……黒河さんの言う通りだ」
なんで突然黒川の名前を出してきた。
やはり関係しているようだ。
「颯斗、は…先延ばしにするって」
「……っ」
「私、じゃ欲情しない?」
「バカ、何言って…」
仮にもここは館内だ。
そんなことを言うべき場所ではない。
「颯斗、わたし…」
「とりあえず落ち着け、な?
焦ったところで何も良いことねぇよ」
ちょうど同じタイミングで映画が始まる合図として、館内が暗くなった。
瞬間───
唇に、何か柔らかなものが当たる感触がした。
それは何度も触れたことのあるもので。
「……颯斗」
やけに近くで聞こえる氷野の声で、彼女にキスされたのだと気づいた。
「何してんだよっ…」
「颯斗が、悪い…私は悪くない」
ここでまさかの俺のせい。
引き下がるつもりはないようで、俺をじっと睨むように見つめてくる。