それなのにいつまでも過去を振り返ってばかりで、どうせなら付き合っていた頃の記憶を喪失したい。
「顔、死んでる」
「は?」
ネガティブなことばかり考えていると、いつのまにか俺を見上げていた氷野がそう言ってきた。
顔死んでるって…確かに表情筋がうまく使えてないかもしれないが。
「氷野に言われたくねぇよ」
氷野こそ表情筋が死んでいる。
ずっと無表情で、少しでも笑えば敬遠されることもないというのに。
「高嶋は私が怖い?」
「別に周りが言うほど怖くはねぇ」
「…ふーん」
聞いたくせに興味のなさそうな返事をして、今度は顔を背けてきた。
まったくもって氷野という人物がわからない。
結局降りる駅に着くまでそれ以上会話をすることなく、俺たちは電車を後にした。



