「高嶋」
その時ようやく氷野が俺の名前を呼んだ。
「ん、どうした?」
なるべく相手を刺激しないよう、優しく返せば。
まだ俯きながらも、彼女は小さく一言呟いた。
「……まだ、高嶋と離れたくない…」
少し、いやかなり。
心臓にきた。
今の氷野を独り占めできて、少しだけ優越感。
「ここは人多いからとりあえず地元に帰るぞ」
「とりあえず…?」
「氷野が言ったんだろ、まだ離れたくないって」
「……っ、じゃあ…!」
何かを察した氷野が嬉しそうに声をあげる。
絶世の美少女なはずの氷野が、今はかわいくて仕方がない。



