「……っ、高嶋行こう」
「は?」
突然氷野が俺の浴衣を引っ張ってきた。
「早く行く、あっち」
「待て、まだぶどう飴…」
「あとで買う!早くきて!」
少し焦っている氷野を見て不思議に思い。
何となく後ろを振り向けば、その理由がわかった。
千智がすぐそばまで来ていたのだ。
向こうは今も気づいていない様子で、氷野だけがそれに気づいたらしい。
だからそんなに慌てていたのか。
「高嶋、隣きて」
「……ああ」
「何も見てない?」
「なんかあったのかよ」
「ううん、何でもない」
知らないフリを演じれば、安心したように胸をなでおろす氷野。
必死な姿が健気で、手を伸ばしたくなったが我慢する。



