「大丈夫」
「……えっ」
「私のほうがバカだから」
相変わらず抑揚のない冷えた声。
揺れない瞳、完全なる無表情。
まったく読めない彼女が俺を混乱させる。
氷野がバカ?
今の会話でどうしてそうなるのか。
氷野は決してバカではない。
テストもクラス1位は当たり前、学年1位も取ったことがあるほどの実力者だ。
それに今の話からすれば恋愛面で俺はバカだということなのだが───
「氷野はバカじゃねぇだろ。
勉強面でもバカなのは俺だし」
「勉強できないの?」
「できねぇのに勉強しないから悪くなる一方」
自分の悪い部分を晒け出して何してるんだか。
そのバカさにすら気づくのが遅くなる。
別に氷野の前で見栄を張る必要もないからいいのだけれど。



