「……あんたにだけ…」
「ん?」
「…っ、なんでもない、うるさい」
聞き返しただけなのだが、うるさいと言われてしまい黙るしかなくなってしまう。
氷野が悪いやつではないと証明されたが、相変わらず読めない女ではあった。
「高嶋」
「どうした?」
これはしばらく沈黙だなと思いきや、それを破ったのは氷野自身で。
「…………」
「氷野?」
名前を呼ばれたかと思うと、また黙り込んでしまう。
ダメだ、全くもって何を考えているのかわからない。
そうこうしているうちに駅が見えてきた。
「ねぇ、高嶋」
また氷野が名前を呼ぶ。
相手を刺激しないよう、ただ彼女の口から放たれる次の言葉を待っていたら───
「別れたって本当?」
まさかの言葉に、思わず頭で理解するのに時間を要してしまった。



