「なぁ氷野」
「なに……っ」
彼女の背中に手をまわし、自分の元へと引き寄せる。
華奢な体は簡単に俺の腕に収まった。
「え、あ…高嶋」
明らかに動揺している声。
石のように固まってしまったその体は、すぐに折れてしまいそうだ。
どうせなら目の前の彼女で忘れようと。
迷わず手を氷野の顎に添え、持ち上げる。
視界に映ったのは、視線のやり場に困っている彼女の表情。
動揺のみならず、焦りも含まれている。
「た、かし…」
俺の名前を呼ぼうとした彼女の唇に、自分の唇を重ねにいく。
一切迷いのないキスだった。
時間にしてみればほんの数秒。
だがその行為はひどく最低なもので。
俺が千智を引きずっていると十分氷野に伝わっている。



