だが俺のシャツを掴む氷野の指先が震えていることに気がついた。
「……氷野?」
「違うの…」
「は?」
「違うの、どうしてこんな言い方しかできないのバカ…」
「おい、氷野…?」
俯く彼女が誰を責めているのかわからないが、まるで自分を責めるような言い方だ。
辛うじて“バカ”という言葉が俺に向けられたものだろうかと感じたくらいである。
先ほどの苛立ちは何処へやら、少し声を和らげて氷野を見つめてみる。
すると俯く彼女が勢いよくこっちを向いて睨みつけてきた。
鋭い視線にさすがの俺でも怖いと思い、ゾッとした。
小学校の時よりも怖さが倍増している。
「帰る」
少しキレ気味に放たれたのだが、何故か俺のシャツを掴む手を離そうとしない。
というかむしろ掴む力が強まっている気がする。



