「彼には弟さんがいるんですね」

家族構成が書かれたところには、岡冬人(おかふゆと)という名前がある。両親はすでに他界したとメモしてあった。

「その弟は、夏輝さんが亡くなった直後に失踪しているわ。夏輝さんから写真は見せられたけど、そっくりだった」

「そうなんですか」

遼河の顔から微笑みが消え、無表情になる。しかしすぐに微笑みが戻った。

「遼河くん、お疲れ様。あとは私がやっておくから今日はもう大丈夫よ」

「えっ?いいんですか?」

「ええ。いつも助けてくれているから」

「ありがとうございます!」

遼河はペコリと頭を下げ、診療所を出て行く。京はふうっと息を吐き、手元にある黒いファイルをもう一度見つめた。



同時刻、街の外れにある廃墟。大学生らしき数人の男女が廃墟の前に立っていた。

「ねえ〜、もう帰ろうよ〜」

女性が言うと、「何ビビってんだよ」と男性たちがからかう。男性たちは肝試しをしに来たのだ。この廃墟は、幽霊が出るという噂がある。