「……あ、の!ここ、わかりません……」

勇気を出して萌は純一に質問をした。心臓が飛び出してしまいそうなほど緊張していたが、質問をしないと成績に響いてしまう。

「ああ、ここはね……」

純一は、優しく丁寧に教えてくれた。わからなかったところも理解することができ、萌は「ありがとうございます」と頭を下げる。

「いや、大丈夫。たしか……草間萌だったっけ?」

「はい……」

「この前提出してくれたテンペラ画、とてもよかった。個性があっていいと思う」

純一の言葉に、萌は「えっ……」と驚く。個性があっていい、そう言われたのは初めてだからだ。驚きでつい口が動く。

「そんなこと、言ってくれるの先生だけです」

萌は、中学校と高校の時の出来事を話す。純一は「なるほど」と考えて言った。

「萌、芸術でも音楽でもそうだが、人を楽しませる分野のものは、自分だけが楽しければいいというわけではないんだ。もちろん自分の世界も大切だけど、一番に考えなくてはならないのはそのキャラクターの個性や依頼者の意思なんだよ」