だけど、今はちょっと。体調が元通りになったら、ちゃんと向き合おう。

「ん、桃子……?」

新さんが寝言をつぶやくかのような小さい声を出した。どんな顔をして会えばいいかわからなくて、とっさに目を閉じ寝たふりをする。

ソファがギシッときしんで、新さんが立ち上がったのが気配でわかった。彼は私の頭元に立ち、無言の重圧をかけてくる。

どうしよう、とても気まずい。

額に手のひらが乗せられ「まだ熱いな」と何気なくつぶやかれた声にドキリとする。それは熱のせいもあるけれど、それ以上に触れられているところが熱いから。

額の手が今度は頬に移動してきた。普段クールなのにその手つきはとても優しくて、激しく胸が高鳴り始める。

どれくらい経ってからだろうか、その手が離れたのは。恐らく数分間はそのままだった。彼のスマホに電話がかかってこなければ、きっともっとずっと。

「ああ、悪い。すぐいく」

電話を切ると、新さんは慌ただしく病室を飛び出していった。