「安心しろ。元気になったら嫌ってほど聞かせてやるから」

そう言って再び頭を撫でてやると、桃子はホッとしたように眠りに就いた。

「失礼するわね」

部屋のドアがノックされたかと思うと、引き戸がスッと開いて同僚の木下が顔を出した。

「あらあら、心配で仕方がないっていう顔ね」

クスクスと笑われ、じとっと睨んでやったが効果はない。

「関係ないだろ、ほっとけ」

「うふ、海堂くんにもそんな一面があったなんて」

「なにしにきたんだ」

「雪名さんのお見舞いに決まっているでしょ。あ、桃子さんと呼んだほうがいいかしら。今は海堂だもんね」

ああ言えばこう言う、気の強い女性。だけど院内で唯一腹を割って話せる貴重な存在。これまでは患者の容態についてがほとんどだったが、木下に桃子との結婚がバレてからはあからさまにからかわれるようになった。

「そういえば桃子と食事をしたそうだな」

「ええ、女同士の話があってね」

「なにを話したんだ」

「それは言えないわ。ヒミツよ、ヒミツ」

「なにか言ってたか? 俺のこと」

「気になる?」

からかうような目で見られ言葉に詰まる。

「それじゃあひとつだけ教えてあげる。彼女は私たちの仲を疑っていたわ」

「え?」