救急隊への連絡を終えると状況はさらに緊迫化していた。倒れている男性の顔色はますます悪くなり、心臓マッサージを繰り返す海堂先生のこめかみからは汗が流れ落ちる。

心臓マッサージは地味な動きかもしれないが、かなりの力を使う。その証拠に海堂先生の呼吸が乱れてきた。

「あの、かわります!」

必死に腕を上下に動かす海堂先生に声をかける。

指示してもらえれば私でも力になれるかもしれない。足がガクガク震えているけれど、私でも役に立てるなら精いっぱいのことをしたい。

鋭い瞳が横目でチラッと私をとらえた。その瞳は一瞬だけ大きく見開かれ、すぐさま私からそらされる。

「じゃあこっちにきてくれ」

「はい!」

海堂先生の隣に移動し見よう見まねですぐさま胸骨部に手のひらを当てた。けれど、ここで合っているのか自信がない。思っていたよりもゴツゴツしていて固いし、女の私の力で大丈夫だろうか。

「もうちょっと上だ」

海堂先生の黒髪がさらりと揺れたのを目の端で捉えた。頬がくすぐったくてほんの少しだけ顔を上げると、目と鼻の先に彼の端正な顔があって息をのむ。

しなやかだけど男らしい手が私の手の上に重なり的確な場所を示してくれる。そこだけやけに神経が研ぎ澄まされたかのようにジリッと熱い。

「肘を張ってまっすぐに腕を伸ばして、半分ほどの体重をかけて圧迫すれば大丈夫だ」

「は、はいっ」

冷たくクールだけど、どこか落ち着きのある低い声はまるで私の味方をしてくれているようで安心させられる。

「では、いきますね」

夢中で胸部を圧迫した。十回もしないうちに息が切れて腕が痛くなり力が抜けそうになる。歯を食いしばり、余計な雑念を振り払い目の前の命だけに向き合った。