それでなんとかなると思った私が甘かった。諦めるどころか、海堂先生は口元をゆるめて小さく笑ったのだ。

「頑固な女は嫌いじゃない。料理はこれから覚えていけばいいだろう。納得がいくまでとことん話し合うのが俺のスタンスだ。今はハウスキーパーという職種があるくらいだし、家事は気にするな。なにもしなくていい」

私の想像の遥か上をいく発言に目を剥く。ウソでしょう。女性としてあるまじき言葉を口にしたのに、受け入れてくれて、その上気遣う言葉までもらえるなんて。

この人、大丈夫かしら?なんて、自分から言っておいて心配になる。

「心配事はそれだけか? 他にもあるなら言ってみろ」

なにを言われても受け入れる。力強い瞳がそう語っていた。

「あ、ありません」

「そうか、なら決まりだな。式は早いほうがいいだろう。こちらで調べておくとして、まずは互いの親に報告だな」

「いやいや、待ってください。どうしてそうなるんですか」

「何事も早いほうがいいに決まっているだろ」

あまりの急展開。どうしてそれで私が承諾したという結論にたどり着いたんだろう。

「承諾したわけではありません」

「心配事はないんだろ?」

「そうですけど、海堂先生って案外強引なんですね」