激務を終えて病院から帰宅するや否や、待ってましたと言わんばかりの叔母に身ぐるみを剥がされ半ば強引に着物を着せられた。

「く、苦しい……」

「我慢しなさい。桃子の運命がかかっているんだから」

「そんなこと言ったって、(かえで)叔母さん、帯締めすぎだよ」

「我慢よ、女たるもの我慢だけが必要なのよ」

ぶうぶう文句を垂れる私に、古風な考えの節子叔母さんが厳しい口調で言う。幼い頃に母が他界してから、父の妹である叔母さんがよく面倒を見てくれた。

私にとって母親代わりのような人。

叔母さんは独身で私のことを本当の娘のようにかわいがってくれた。思春期を迎えて扱いにくくなった私を本気で叱ってくれたのも、父ではなく叔母さんだった。

だから叔母さんのことはとても信頼してる。

「さぁ、行くわよ」

タクシーで都内の一等地、高級店がずらりと並ぶ一角に父が経営する料亭がある。

純和風の店構え『玄人(くろうと)』は祖父の代から受け継がれ、昔から変わらないスタンスで素材にこだわった和料理を提供している格式高いお店だ。

誰にも真似できない味つけは一等地のマダムたちに好評で、昼のランチは予約が二カ月先まで取れないほど人気。