「俺にはそうは見えなかった。桃子はそうでもあいつはちがう」

「誤解です。進には長年片想いしている相手がいますから」

「は?」

「それは私じゃありません。だから誤解しないで」

身をよじって振り返り正面から新さんの顔を見上げる。戸惑うように揺れる黒くて大きな瞳。

「私は新さんが好きです」

一世一代の大告白。恥ずかしさでいっぱいだけれど、誤解されたくない気持ちのほうが強い。

「初恋です。前にとっさに経験があると言いましたが、嘘です。男性経験なんて、一度もありません」

思わず全部正直に言ってしまった。二十七にもなって、今まで誰とも付き合ったことがないなんて引かれるかもしれない。

「初恋って、本当か?」

「はい」

「そうか、初恋か。初恋なのか」

そう何度も繰り返さないでほしい。どこかに穴があったら入りたい気分だ。

「だとすると、桃子の初めては全部俺がもらうというわけだな」

からかうように微笑まれ、鼓動が高鳴る。

「か、からかわないでください」

「事実だろ。桃子の気持ちを知ったからには、もう容赦はしない」

居たたまれなくなってとっさにうつむく。すると新さんはジャケットのポケットに入れていた封筒を取りだし、折りたたまれた用紙を広げた。