「桃子の元気な顔も見れたことだし、そろそろお暇するよ」
「え……?」
もう?
立ち上がろうとする新さんのジャケットの裾を無意識につかんでいた。疲れているんだから、わがまま言っちゃダメだとわかっている。
「どうした」
新さんは驚いたように目を見開いて私を見下ろしている。どうしても寂しさが勝ってしまい、私はなにも言えずにうつむく。だけどなにか言わなければ、困らせてしまう前に。
「すみません、もう帰っちゃうのかと思ったら寂しくて……もう少し一緒にいたかったんです」
ああ、もう隠しきれない。困らせるとわかっていて、つい本音が口からでた。新さんの反応が知りたくて、恐る恐る顔を上げる。
ポカンと口を開けたまま微動だにしない新さん。
「あ、あの、どうしたんですか?」
「もう一度言ってくれ」
「え?」
「頼む。もう一度聞きたいんだ」
「寂しいから、もう少し一緒にいたい、です」
改めて言い直すと全身に熱が駆け抜けた。恥ずかしくてたまらない。
「せめて桃子が退院するまではと思って我慢してたのに」
その言葉のあとに新さんの顔が近づいてきて、一気に距離が縮まった。あっと思った瞬間には唇が重なって、彼の腕に抱きすくめられていた。



