答えられないのは、彼の横に可愛らしい女の子がピッタリと寄り添っているからに他ならなかった。
初音の視線は自然とその女の子の方へ向けられる。

雪次郎もそれに気付いて、彼女の事を手で示すと「彼女は常本 遥(つねもと はるか)さん。同じゼミのよしみで色々と相談に乗ってもらってるんだ」と紹介した。
続けて、「こちらが森崎 初音さん。俺の大事な人」と雪次郎は遙に向けて言う。

“大事な人”などと堂々と言われて、初音は嬉しいようなこそばゆいような気持ちになった。

「どうも。お噂はかねがね……」

遙はペコリとお辞儀する。

“お噂”とは一体どのようなものなのか……、あまり考えたくはない。

互いの顔合わせが済んだところで、雪次郎のスマホが短いメロディーを奏でる。

「はい、もしもし……」

その場で電話に出た雪次郎は、電話向こうの相手から要件を聞いてすぐに電話を切った。

「ごめん。ゼミから呼び出し食らった。すぐ、戻ってくるから!」

茶目っ気たっぷりに両手を合わせ、女性二人を残して足早に食堂を後にする。