すでに大学進学も決まっていて、初音にはまだ見ぬ未来の世界があった。

『分かりました。返事をありがとうございます』

彼はそう告げて去っていった。
失恋の痛みや悲しみなど微塵(みじん)も感じさせる事無く。


初音は高校を卒業と同時に県外の大学へ進学をして、一人暮らしを始めた。

『雪次郎くん、ご両親の都合で引っ越ししたんだよ』

それから間もなく、母から雪次郎が家族と共に引っ越したと聞かされた。
寂しさや喪失感なんかよりも先に“もう二度と会う事は無いかも”という事実と彼が最後に見せたあの澄ました顔が思い浮かんだのを覚えている。

それから数年が経ち、初音は大学卒業後も銀行員として働きながら一人暮らしを続けている。


そう――…“二度と会う事は無い”


そう思っていたんだ。