しかし、ありのままの自分として、恋することは、ないだろう。

人の生涯は、舞台に喩えられることが多い。
『人は誰しもが、自分と云う舞台の、主人公なんだ』と。

ならば、演じ続けなければならない。

『長岡美久』は、舞台袖に置いておいて。
『必要とされる、愛される女の子』を演じる。

長岡美久と云う役を再び演じるのは、死ぬ頃。
死ぬ最期の瞬間に、もう一度、長岡美久に戻る。

好きになってもらえる女の子を演じる。
『偽りの長岡美久』は、何人いるのだろう。
どれが自分なんだろう。

どれも偽り。
そう分かっている。
だが、時折、本物の自分なんて、亡いんじゃないかと思ってしまう。

偽りのモノを、本物なんだと、錯覚してしまう。
虚像を、信じてしまいたくなる。


ピンポーン、インターホンが鳴る。

「美久ちゃん、ちょっと、出てくれない?」

渋々、モニターのボタンを押す。
映っているのは、知らない男。
由美の高校の制服を着ていた。