「はい、これ、面白いよ」

友達から渡されたのは、いかにも少女趣味な、純愛の漫画だった。


(つまんないの)

1ページだけ読んで、美久は本を放り投げた。

(つまんないの)

擦り込むように、そう暗示をかけるように、もう一度。
親が子供に、言い聞かせるように。諭すように。

小学生の頃、憧れていた、誰かを愛し、愛される、そう言う、幸せな恋愛。
この歳になってからは、その憧れを捨てた。

誰も、本当の自分なんて、好きになってくれるはずもない。
こんな陰気で、可愛気のない女を好くなんて、とんだ酔狂な奴だ。或いは、変人。

『恋なんて、しちゃ、ダメよ。美久。』

姉の由美が、悲しそうな顔をして、言っていた。
なんでも、友達が、彼氏にばかり気をとられ、構ってくれなくなったとか言う。

『馬鹿。』

何十年もこれから生きて行く。
恋くらい、するに決まってる。