まだ微かに温もりを感じる毛布を、ぎゅっと抱き締めた。

何も、分からなかった。


「ただいま」

谷川は玄関で、そう言った。
返事はない。

「母さん、父さんは?」

「………」

「また、パチンコ行ったの?」

谷川はやれやれ、と呆れた顔をする。
母親は、俯いて、背中を向けた。

谷川の父は、大企業の部長だった。
金もあり、谷川自身の頭もよく、県で一番の高校に推薦で入学した。
順風満帆な人生。な、はずだった。