『春子さん、病院通いなんですって』

『精神科でしょう。鬱って聞いたわ』

『そんなことで?やっぱり金持ちは違うわねえ』

『旦那さん、帰って来ないんですって。愛人のところばっかりで』

『仕方ないわよ、あんな地味なオバサンじゃ』

誰も、母を助けてはくれなかった。
ただ一人、心を病んでしまって、一人で死んでいった。

葬式に参列した父は、棺に入った、冷たい母の顔を見て、「こんな顔をしていたか」とだけ、つぶやいた。

母の遺骨は、実家に戻されて、家からは、母の痕跡は消し去られた。
写真は全て破り捨てられ、やっと一枚くすねていたのが、飾っている一枚である。

『ごめんね』
どうして、何も遺してくれなかったの?
『ごめんね』

誰も助けてくれやしない。