「この部屋、宏臣の新居って聞いたんだけど、ふたりで選んだの?」

 いい部屋だねって言えたらいいのだけれど、褒めるべき要素がなかなか見つからない。
 ずっと実家暮らしの私には、部屋の広さがどうなのかさえぴんとこない。

「俺が探して決めたんだ。あいつを喜ばせたくて、なにからなにまで全て」

 宏臣のどこか誇らしげな語りぐさに、私は固まってしまった。
 潮崎くんと目があった。なにか言ってやってよ、とばかりに顎でしゃくっている。

「それはだめでしょ。やっちゃいけないやつでしょ」

 呆けた顔を宏臣は私に向ける。
 予想外の評価だったらしい。


「はあ? あいつのためにお膳立てしてやって、それ? え、ちょっ……女ってこういう行動力にぐっとくるんじゃねーの? お前も言ってたよな。俺に焚きつけるようなこと、男を見せろみたいなことをさあ」

「言ったけど、こういうことしろって意味じゃ……」

「わかった、結衣さ、自分に男がいないもんだからわかってねーんだよ。結局のところ。まずはそこから始めなきゃ、俺と対等にはなれないから」

「宏臣、私のこと、そんなふうに思ってたの?」

 まあまあ、と潮崎くんが割って入った。こいつ酔ってるから、と小声で私に伝えてから宏臣に向き直った。