マンションは住宅密集地にあった。築年数はそこそこいっていそうだけれど、中はリフォームされていて壁はきれいだ。

「喧嘩したんだって?」

 宏臣は壁に寄りかかってクッションを背もたれにして座っていた。
 スマホでゲームをしているところだった。
 酔いつぶれていないことに、私はひとまず安堵する。
 潮崎くんが呼ばれた経緯は聞いたものの、なぜ私まで来る必要があったのかはわからないままだった。

「喧嘩じゃねえよ」

「なら、なに?」

 宏臣は不機嫌そうにそっぽを向いている。
 潮崎くんは会話に加わる気がないようで、上着も脱がずに壁際に立ったまま腕組みをしている。

 ローテーブルには使った食器が出しっぱなしになっていた。
 流しに持っていきながら、私は室内を観察した。
 積んだままの段ボールが隅にあったり、ゴミ袋があったりで、言ってはなんだけど彼女の出入りしている気配は感じられなかった。
 宏臣に答える気配がないので、質問を変えた。