ひとしきり、甘い雰囲気を堪能した。
 ずっとこうしていたいと思う一方、明日も仕事だと冷静に考える自分もいる。

「……あー」
 思わず声が漏れた。

「あーってなに」

「もう一回言って、って気持ちがわかった。いい勉強になりました」

 それはそれ、これはこれと頭を切り替えようとする気配が伝わったのか、岸さんが少し体を離して真面目な顔になった。

「言おうか」

「いいの?」

「俺は大人だから言える」

「今、ありがたみが薄れた。離れてくれます?」

 言うが早いか、私のほうから突き放して距離を取った。


 告白でもされるかと思った。
 でももしそうじゃなかったら恥ずかしいし、がっかりして凹みそうだ。
 岸さんも勝手に告白だと思いこんだ私を笑うんじゃないかって、一瞬で、ぱぱぱっと頭をよぎった。
 一言で言うなら『慣れてる』ってやつだ。それを直感した。
 この人、女の子のあしらいに慣れてるなって、今までそんなことを考えたことなかったのに、思ってしまった。

 岸さんはいつもどおりに車で送ってくれた。
 さっきなにを言おうとしていたのかはわからずじまいだ。