「無理無理。絶対無理!」

「もう一回」

「やだ」

「結衣ちゃん」

 このタイミングで下の名前で呼んでくる。



「もう、ほんとやだ。ずるい。人のこと面白がって」

 よろけながら私は頭の中を整理する。
 花束を包むフィルムが風でかさかさ音を立てている。
 握りしめて拳を作っていた手が冷たい。

「岸さんといると、抱きしめたい気持ちになっちゃうんです! 私だけそうなるのは嫌なのに、もうほんとずるいなっていつもいつも……」

 そこから先は言わせてもらえなかった。
 岸さんの靴が半歩動いたと思ったら、次の瞬間には頭ごと抱きしめられていた。身じろぎする隙間もない。

「君だけじゃないよ」

 声が降ってくる。

「俺だって名取さんを抱きしめたかった」

 嘘みたいな台詞が降ってくる。