そうこうしているうちに意匠部に用事ができた。
 でも室内に岸さんはいなかった。デスクは空席が多い。

「結衣ちゃん、これよかったらどうぞ」

 意匠部の穂佳(ほのか)ちゃんから手招きされて、部屋の隅でお菓子の箱を差し出された。
 クリームの挟まった洋風煎餅と生八つ橋が入っている。


「ありがとう。えー、どっちにしよう。迷う」

「みんな食べていいよ。部署の分は配って、これは余ったの」

「ありがとう」

 結衣は洋風煎餅ひとつと、生八つ橋三つを手に入れた!

「食べていきなよ。さっき給湯室でランチ用の麦茶を作ったから、飲んでっていいし」

「ありがとう」

「あはは、ありがとうはもういいよー。わかったから」

 個包装の洋風煎餅はそのままでいいとして、生八つ橋のほうはティッシュペーパーにくるませてもらった。


 穂佳ちゃんは意匠部のなかで一番気心の知れた相手だった。
 明るい人柄でいつも誰かから頼まれごとをしている。
 部署でお土産を配るのも、彼女の仕事として定着していた。

 静かな部署で会話を続けるのも忍びなくて、ふたりで廊下に出た。
 給湯室に入る。ドアは開けたままだ。

 京都のお土産だから誰かの出張かと思って聞いたらそのようで、
「私も同行してたの。二泊三日」
「え、そうなんだ」
「部長や課長や、あとは岸さんとか。一緒だった」
 頷きながら、私は八つ橋をひとつ、口に放りこむ。