私も岸さんが買った図録を広げた。
美術館内で人混みの隙間からやっと見た作品の数々が整然と掲載されている。
もちろん、直に見て大きさや迫力に触れるのが一番だけど、もう一度雰囲気を思い返したいときにはお誂え向きかもしれない。
岸さんは普段からいろいろな感性に触れているんだと実感する。
「真面目に構えなくていいよ」
岸さんが私から図録を奪う。
「『こういうものを見て勉強しろ』なんてつもりで今日連れてきたわけじゃないから」
片づけてしまうと、次はどこ行こうかと聞いてきた。
いくつか寄り道をして綺麗なレストランでご馳走になり、車で帰路につく。
そうして岸さんの用意してくれた“頑張ったご褒美”は終わった。
終わるのが惜しいくらいの一日だった。
金曜日には仕事のあとで待ち合わせて食事をし、レイトショーの映画を観にいった。
そのうちに観ようと私が思っていた作品で、岸さんは一緒に歩いているときにポスターを目にして興味を惹かれたものだった。
週末で公開が終わると知って、それなら行こうと話がまとまったのだった。
映画の余韻に浸っていたかったけど時間も遅い。
家に着くころには日付が変わっている。
まっすぐ帰るしかなかった。

