赤信号で止まったときに、岸さんが振り返ってなにか言った。
 ふたりともヘルメットを被っているので、ふつうに話しかけたのでは聞きづらかった。


「スピード、速かった?」

「そんなことないですけど」

「いつもよりしがみつかれている気がして」

「そんなことないですけど」

 抱きついていたのがばれてしまった。

「じゃあ離れます」

「だめだよ。ちゃんとつかまって」

 
 真っ直ぐ送ってくれるのかと思いきや、寄り道をした。
 観光ガイドに載ったことのある、川沿いの展望台に着いた。街明かりが遠くに帯状にきらめいている。星もよく見えた。

 岸さんが自販機で飲み物を買ってきてくれて、微糖の缶コーヒーをもらった。

「寒いけど綺麗ですね」

「夏の夜も綺麗だよ。ただ、蛙と蝉がうるさい」

 情景がすぐ想像できた。

「だったら寒いほうがいいな」

 私は手摺りに手を置いて、遠く流れる車のライトを見ていた。岸さんは後ろでベンチに座っている。


「車の免許を持っていないから、こういう場所にはなかなか来れなくて。初めてです、ここ」

「それはよかった」

 静かで、他に人もいない。街の喧噪からほど遠い自然のなかは、心を静ませるにはちょうどよかった。
 向かい風が絶え間なく吹いていた。川が近いせいかもしれない。
 飲み終わった缶を捨てて戻る。岸さんは座ったまま私を見ている。


「なにがあったか、話したほうがいいですか」

「どっちでも。話したければ話せばいい」