またみっともないところを晒してしまった。
 宏臣も口元汚れていると教えてくれたらよかったのにあの男、彼女以外の女はもうどうでもいいんだな。

「どうもしてないです」
 もう一回言ってから、後ろを向いてハンカチで口を拭う。
「嘘つけ」


 宏臣といたのを見られていたとしても、岸さんには宏臣の婚約云々の流れを話してある。
 今更どうということもないはずだ。
 ヘルメットを被った岸さんに向き直る。

「私、人でも刺しそうな顔、してます?」

「その逆。どこか……痛そうな」

 参ったな。なんでこんなタイミングで現れるの。
 半端に、優しさをふるわないでほしいんだけどな。

 乗っていくかと問われ、はねつける元気もなく頷く。

 
 バイクじゃなくてもよかった。
 送ってくれなくてもよかった。
 ぎゅって、岸さんにしがみつけるならなんでもよかった。