紐の結わえかたが甘かったようだ。
 伸子はゆでるまえのパスタをぶちまけたときのように、足元に広く散らばってしまった。

「まるでコントだな」

 しゃがんでかき集めていると、ため息でも混じっていそうな声が上から振ってくる。


 違う。わざとじゃない。
 そう言おうとしたら、
「少し待ってて。思いだした」
と、私の言い分も聞かずに岸さんはいなくなってしまった。


 待つもなにも、ここを収集しないことには動きようがない。
 ひとまとめにした伸子にもう一度紐を巻きつけ、丁寧に結ぶ。
 ふう、と一息ついて壁にもたれていると、岸さんの姿が。

「あ。ほんとに戻ってきた」
「渡しそびれていたものがある」

 チューブ入りのハンドクリームを渡された。
 かわいいと言われても動じなかったのに、一気に顔が熱くなった。

「クリーム渡したくなるような……目に余るほどの、女子力の低い手、してましたか」