「長い間ごめんねえ。手伝ってくれて、ありがとうね」

 怪我のために長期欠勤していたパート社員ーーアケミさんが復帰し、私は元の職場に戻れることになった。
 いきなりのフルタイムは負担も大きいからと、私も半日だけは今までのように作業手伝いをする手筈になっている。
 描きの目途がついたことで、私の気持ちも晴れやかだ。

「お疲れさまだったね」

 いえ、と私は短く首を横に振る。

「本職の仕事があるのに悪かったね。現場は大丈夫かい?」
「大丈夫です!」

 嘘だった。勘が鈍っているから反物に色を乗せる怖さがあって、まずはなるべく単調なのをまわしてもらうことになっている。


 アケミさんは慎重に椅子に腰を下ろした。
 棒でお湯をかきまぜて、浮いている染料ボトルから空気を抜いていく。

「文句もあるだろうにえらいね。息子の嫁にしたいくらいだよ」

「わー、嫁ぎ先、絶賛募集中なので是非とも!」

 もう一人のパートさんが意味深な笑みを浮かべているのに気づいた。


 私が視線を追うように背後を振り返るのと、肩になにかが触れたのはどちらが早かったか。

「いたのかい、巧実(たくみ)」

 そこにいたのは岸さんで、私の左肩を指でつついたところだった。