例の大量注文品もようやく終わりが見えてきた。
 残すところあと数反だ。

「もっと内職にまわせばいいのに」

「出してるよ。だけど一度に全部まわすとまとまって仕上がってくるから、後行程が詰まっちゃう。どっかんと三十反来られても、金筒とかの手作業の現場がパンクするでしょ」

 スケジュール管理のヒサコさんがフォローにまわるくらい、手描きの現場は愚痴っぽい雰囲気に包まれていた。


 先輩方の気持ちはわかる。
 同じ柄ばかりこうも続くと緊張感も薄れがちだ。
 そろそろ別の柄にかかりたいと思えてくる。

 私にとっての別の柄は、宏臣との約束の着物だ。
 違うのにいきたいけど、まだやりたくないような、早く済ませたいような、気持ちを固めてから取り組みたいような。
 複雑な心境。


「結衣ちゃん、ちょっと来られる?」
「なんでしょう」

 ヒサコさんのデスクには余所からきたと思われる男性が三人いた。
 一人は大きなカメラを担いでいて、あっと気づく。
 例の撮影だった。

 結衣ちゃんが適任だから、と予想通りのことをヒサコさんから頼まれた。
 撮影用の反物を手渡される。
 準備もあるため、テレビ局の人たちは他をまわってから撮りに戻ることになった。

「手元しか映んないんで問題ないですよ」
 去り際にそんなことを言われた。