九月に入り、岸さん作成の私に贈る着物は仮縫いまでできあがったと聞いた。そこで母に頼み、手持ちの帯を出してもらった。
 私が着つけ教室へ通っていることを知る母は、理由を尋ねるでもなく、言われるがまま金糸や銀糸の入った袋帯を衣装箪笥から取ってきた。


 お茶菓子と形になった訪問着を携えて、岸さんは日曜の午後にやってきた。
 両親への挨拶は岸さんでも緊張したようだった。
 話が済むと、父は出かけてしまった。

「岸さん、どきどきしたでしょ」

 母がやかんの火を止めにいった隙に声をかけると、岸さんは頷いた。

「した。けど、ほっとしたところもある。交際しているって、ご両親には話しておきたかった」

 岸さんの実家には去年のクリスマスに行ったものの、あのときはつきあっていなかった。
 おつきあいの話自体は、岸さんの母であるアケミさんは知っている。会社で話したのだ。

「私も改めてご挨拶にうかがったほうがいい?」

「顔は知っているんだし、別にいいんじゃないの。俺はもう三十だから、親が口を挟む年でもないし。ただ、また遊びに来いとは言っていた」

 ユイトくんのことを思った。子供の成長は早いというから、一年で相当大きくなっているだろう。