間髪入れずに岸さんが拒んだ。頭を抱え、一方の手のひらをこっちに向けている。
 珍しい。初めて見た。


「俺がそういうこと言うのはいいけど、君がこの場で言うのはなしにしよう。花火どころじゃなくなる。いちゃつきたくなる」

 自分勝手な論理展開。

「素直に言ってくれるのは嬉しいけど、状況がまずい。ただでさえ今日、浴衣のせいか君は妙に艶っぽくて……こっちは変にテンション上がっているのに」

「上がってたんだ?」

 笑みがこぼれる。着つけも髪をまとめるのも手間だけど、やってよかったと思える。
 岸さんが家で着物を手がけているあいだに身につけた技術だった。着るのもヘアアレンジもひとりでやった。

「それは上がるよ。上がらないわけがない。だから、結衣ちゃんのそういうのはまた今度に取っておいて。部屋でふたりのときにでも、全部聞かせて」


 気づいたのはどちらが先だったかーー花火が上がりはじめた。音が遅れて届く。川沿いの打ち上げ場所からは距離がある。それを差し引いても大きな花火だった。

 平野に上がる大輪の花を遮るものはなにもなかった。夜空に打ちあがり、丸く開いては消える。続けざまに上がる。白く煌めいては闇に溶けていく。違う色に、ときには愛らしい形に光を放ってくーー。


— さよなら、片想い  番外編・花火観覧  終 —