交通規制が掛かり、歩行者道路は広く設けられているものの、道は人で溢れかえっていた。固まりになって流れのように同じ方向へ歩いた。
 アスファルトに昼間の熱が残っているのか、夕方でも暑かった。

 少しでも早く行っていい場所を取りたいのだろう。我先に、といった人が急に死角から追い抜いていく。
 こっちはぶつからないように避けるしかなく、その一瞬のまごつきで岸さんとはぐれそうになる。


「結衣ちゃん」

 手を岸さんに強く引かれ、そのまま繋いでいてくれた。徐々に端に寄り、曲がり角から路地裏へ。苦しいくらいの混雑を抜け、楽になった。

「大丈夫?」

「なんとか。人熱(ひといき)れがすごかったですね」

 互いに目を見合わせてほっと息をつく。
 繋いでいた手を岸さんが一度離し、指を絡めて繋ぎなおした。それだけで意識してしまう。


 ぽつんと開けた公園を抜け、緩い坂を上った。そこに小さな神社があった。スマートフォンの地図を最大に拡大しないと見つからないような場所だ。
 木立の向こうには先客がいた。女の人の声も聞こえた。たぶん、私たちのように花火目当ての客だろう。
 岸さんに倣ってお参りを済ませてから来た道を戻る。このあたりで、と石の段差に並んで腰を下ろし、飲み物を飲んで休憩する。
 雑談しながら花火の上がる方角を確認していたら、真横からの岸さんの視線を感じた。


 視線を合わせるのが憚られた。目と目が合ったら、迫ってきそうで。
 そういう直感は、ここのところだいたい当たっている。

「なに」

「なんでもない」

 岸さんは穏やかな表情で私を見ていた。