岸さんは鍵穴に鍵を差しこまない。


「やっぱり今日はやめる?」

「嘘だったんですか」

 決まりが悪そうにそっぽを向いている岸さんに私は言わずにいられなかった。ここまで来る道中も不安でたまらなかった。けれどもついてこれたのは……。

「会えて嬉しいってさっき言ったの、嘘だったんですか」

 さっきの言葉があったからだ。


「私はもう用なしですか? しばらく会えなくても平気ってこと? 一緒にいたいとはもう思ってもらえないの?」

 違う、と岸さんの手が伸びてきたのを、私は振り払った。

「岸さん忙しいって言ってたし、新しい職場に変わったばかりで疲れているのもわかる。私だって、岸さんがゆっくり時間を作れるまでは会えなくても我慢しようって思ってた。だから、会えたときくらいは少しでもそばにいたくて。なのに」

 唇が震える。

「私だけですか。淋しいって思うのは。こういうこと言うのは重たい?」

 自分でも止まらない。